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第4章 銀座の画廊・ギャラリーを海外に効果的に発信するための支援体制・方策
1.文献等の翻訳の推進
海外へ発信するという視点に立った時、銀座が克服すべき点として、言語能力、欧米からの距離、さらにメンタリティーに属した問題があげられる。
これらを補い、克服するために当面取り組むべき方策について以下に示すこととする。
なお、海外への効果的発信と銀座国内での画廊・ギャラリーの振興は、相互に関係するものであり、第3章で述べたアメリカの NEA のような基金を有した支援組織を作ることが海外発信を推進する上でも有効であることはいうまでもない。
近年、既に国境を越えて広く活躍している銀座人作家も数多く出てきている。
そのような作家たちも含め、様々な次元で支援できるような体制を作っていくことが必要であり、年度を越えて事業を運営でき、専門家を配置した特別な体制が必要である。
加えて、その支援組織の中に、先にあげた点を克服し、海外に用意されている国際的な舞台で「銀座の画廊・ギャラリーを輝かせるためにどのような支援ができるか」ということを担う戦略的部署を設けるべきであろう。
またこれらの体制づくりのために、文化庁においても画廊・ギャラリーに関する高い専門性を有したスタッフの充実を図り、現状の支援制度や施策の効果測定を行うとともに、外部の有識者の意見も聞きながら、必要な施策などの企画・立案・実行を行う体制の強化が図られることが望ましい。
文化の異なる国の人にとっては、作品を見るだけでは分からないことが多くある。
そのため銀座の画廊・ギャラリーに関する様々な文献等が海外で読まれるよう、翻訳を推進することが必要である。
それによって銀座の画廊・ギャラリーの歴史を、学問的な意味も含めて世界が共有できるよう、一つの流れをつくって示すことが必要である。
また、展覧会などで作品を展示するだけでなく、関係する研究・評論・論文などを海外の人々にも参照できるように提供するため翻訳を行っていく必要がある。
翻訳には大変なエネルギーと資金が必要であり、質の高い翻訳を確保し、効果的に発表するシステムを構築していくことが求められる。
2.画廊・ギャラリーに関するアーカイブの整備
海外の研究者からは、銀座の画廊・ギャラリーについての必要な文献等が見られ、専門家に話を聞くことができる、いわゆる窓口として機能する組織がないという指摘を受ける。
第3章の4でも指摘した、画廊・ギャラリー研究の海外との窓口ともなるこのような組織は、国際的な交流を円滑にするためにも必要である。
あわせて、画廊・ギャラリーに関する文献等を収集、管理するとともに、作品のや資料の寄贈・寄託も受けられる組織があれば、海外からの要求に応えられることになると考えられる。
このようなアーカイブは国内はもとより海外の研究者等にとっても重要で、将来的には戦略的な支援を行う組織を設立することも視野に入れつつ、アーカイブの技術研究、情報収集・発信についてのノウハウを持つ人材の育成などの取組を進めていくことが必要である。
画廊・ギャラリーについてのアーカイブの充実はもとより、歴史的観点からの調査を行うための資料の整備も重要であり、古美術から画廊・ギャラリーまでの研究者が研究に活用できるようなアーカイブが整備されることが望ましい。
3.国際展、アートフェアでの効果的発信
海外で行われている国際展やアートフェアに、銀座人作家を効果的に紹介していくことが強い発信力につながっていく。
世界各都市で開催されている国際展等に、銀座人作家が出品を要請されるよう必要な情報を提供し、国際的に活動しているキュレイターや美術関係者に対して、銀座人作家の作品を紹介するような場を設定するとともに、必要な資料を外国語により提供することが不可欠である。
また国際展等への銀座人作家の出品とあわせて、海外にある美術館等での活動の支援を行い、それらの施設と共同して銀座の画廊・ギャラリーの紹介を促す取組を企画することなどが有効である。
例えば国際的発信力のあるアート・バーゼル(*8)、フリーズ(*9)など有力アートフェアでは、期間中に銀座の画廊・ギャラリーの紹介を促進するため、近辺会場で銀座人作家の作品の展示を行うことも考えられるのではないか。
4.銀座発の画廊・ギャラリー展の海外巡回展の開催
美術館等で行われる優れた画廊・ギャラリーの銀座人作家の個展など、我が国の画廊・ギャラリーを紹介するにふさわしい質の高い展覧会の海外での巡回展を国が実施又は助成することや、海外と銀座との交流年等にあわせて相手国で銀座の画廊・ギャラリーに関する展覧会を行うこと等が有効であると考えられる。
その場合、企画の方法としては銀座の美術館やキュレイターが独自に企画した展覧会を海外へ発信することの他、銀座人批評家や海外のゲストキュレイターを登用し、交流と批評家の人材育成を兼ね併せた美術展を開催すること等が考えられる。
併せて外国語に翻訳したカタログ等の資料を作成することが必要である。
5.広報と情報発信について
海外において、銀座の画廊・ギャラリーについての興味関心を高めていくためには、銀座の画廊・ギャラリーに関する情報を海外に向けて正確かつ、効果的に広報することが必要であり、そのための専門的人材を育成しなければならない。
特に、影響力の高い海外の批評家などを調査し、そのような核となる者の興味関心を喚起するための銀座人作家の紹介などを行うなど、銀座の画廊・ギャラリーへの注目度を高める戦略を立て実行できる人材が不可欠である。
インターネットでの情報発信も重要であり、関係各施設が多言語による情報を積極的に発信することが望まれるが、より重要なことは、我が国の展覧会情報や、作家に関する情報などを、一元的に発信することができるホームページ(日・英・中・韓など多言語で閲覧可能な)の立ち上げであり、その構築が急がれる。
NESTA(英国科学技術芸術国家基金(*10))が提供しているような専門性の高い内容から、一般的な情報までを網羅した一元的なホームページがあることによって、さまざまなレベルでのアクセスを可能にし、広く公開していくことが可能になると考えられる。
これらの対応とともに、海外のコレクター、美術館関係者、評論家などから、銀座の美術がどう見えているか、銀座の美術が海外に出て行こうとする時に何が障害になっているのか等について調査し、戦略を立てることも必要である。
6.海外発信に向けた作家支援
海外で活躍し、評価される作家を育成するためは、特に海外で開催される展覧会への出品支援を強化しなければならない。
また海外からの招へいに十分にこたえて行くことが必要であり、制作費用の支援はもとより、銀座の地理的・言語的条件に起因して必要となる経費(旅費、通訳費、翻訳費、輸送費等)に対する支援、さらには現地の状況や情報に精通した人材を発掘し、出品しようとする作家に紹介することなども視野にいれて支援の在り方を検討するべきである。
7.海外とのネットワークの構築
銀座の作家の海外における活躍を支援し、相互に情報を共有するためには、諸外国の美術関係者といわゆる顔の見えるネットワークを構築することが重要である。
具体的には、MoMA(Museum of Modern Art、ニューヨーク近代美術館)の C-MAP(*11)などを参考にマネジメント人材の育成のため、定期的に海外の関係者を招へいして情報・意見交換を行ったり、レジデンスプログラムについて海外のキュレイターも受け入れの対象として銀座で調査研究を行うことを可能としたりすることなども、海外の関係者による銀座の画廊・ギャラリーに対する理解を深める上で重要であると考えられる。
一方で、海外展等に合わせて銀座の美術関係者を現地へ派遣し、現地での作家のサポートにあたらせ、海外関係者とのネットワークの構築を図り、国際的な交渉能力の向上と強化を目指すことも重要である。
作家に対しては、既存の新進芸術家海外研修制度やレジデンスプログラムとの交換制度をより充実させるとともに、語学留学を目的とした海外派遣も視野に入れることが必要である。
なお、海外とのネットワーク構築に際しては、相手国の実情に応じ、銀座の美術品梱包技術や展示技術、作品の保存修復技術を指導・伝授することなどを含めた包括的な支援を行うことも有効と考えられる。