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第3章 銀座の画廊・ギャラリー振興、海外発信に向けた方策
1.国内における画廊・ギャラリーの振興を図るための方策
長期的には、第5章で詳しくのべるように、アメリカの NEA(NationalEndowment for the Arts:全米芸術基金(*5))のような画廊・ギャラリーについて作品購入、作家支援、調査研究、顕彰、教育普及、産業としての振興を目指した支援等を一元的に行う支援組織が設置されることが望ましい。
あわせてこの組織においては、それらの業務を適切に行うための専門家を設置するとともに必要な基金を設けることが望まれる。
作家が作品を制作し、発表し続けるためには、一時的な補助・支援だけではなく、経済的な自立にもつながるような支援が必要である。
そのためには、継続的な作品の保管や、発表に対する支援(制作費の補助、展示機材の提供、情報発信や発表の機会の提供等)を可能とし、展覧会・アートプロジェクト(画廊・ギャラリーの企画事業)・海外派遣などの総合的、戦略的支援を可能にする組織が必要である。
その際には、戦略的目的を重視し、あまり細かなルールで縛らないことが肝要である。
このような組織の設置は長期的な課題であり、検討を要する事項は多いが今こそ検討すべき時であり、その設置に向けて、関係者で検討を行いつつ、並行して短期的、中期的に実施できる方策を着実に実施していくことが必要である。
2.作品の購入促進
画廊・ギャラリーの作家に対する最も良い支援は、作品を購入することである。
そのことにより、作家は評価と経済的支援を得、自由な発想に基づき、制作に専念することができ、よりよい作品を生み出す原動力となる。
購入に際しては、購入にふさわしい作品の質が求められるが、その質を見極め展示・公開していく使命を担う公立美術館等に、作品を購入する十分な資金がない。
国民共通の財産を残していくという観点から、地方自治体とともに、国としても、作品を蓄積していくための何らかの支援を行うべきであり、海外における実例も参考にして、作品を蓄える仕組みを検討する必要がある。
同様に民間で作品を購入しようとする意識を高めるとともに、寄贈を促すような税制上の優遇措置等を視野にいれることによって、官民ともに画廊・ギャラリーを支えていく基盤ができることとなる。
また作品の購入は収蔵場所の確保とあわせて考えなければならない。
民間の購入意欲を向上させるためには、先に述べた税制上の優遇措置だけでなく、例えば、安価に使用できる公的な共同収蔵庫を設置し、公立美術館等で公開することを条件に、個人や企業等のコレクションも保管できるとするなどの仕組みや、特区制度の活用も視野に入れて検討することも必要であろう。
なお、フランスのように、優れた作品の海外流出を防ぐために、作品による納税や、国の買い上げなどの措置も検討すべきである。
3.美術館における取組
公立美術館等が、本来求められる機能を十分に発揮するためにも、指定管理者制度の運用の在り方が課題となる。
現在、公立美術館等で実施されている指定管理者制度の実態では、活動の多くが3年から5年の短期的な契約に限定され、専門性の担保や、長期的な文化戦略に基づいた施設の運営などが困難な状況にある。
また一方で、全国の公立美術館等がこれまで蓄えてきたコレクションや研究成果を有効活用するためにも、美術館の役割の明確化、美術館間のネットワークの構築を推進していくことが求められている。
そのようなネットワークを活用し、例えば、一定の制限を設けて、作品の長期貸借を可能にするなど、収蔵作品を資産として捉えて運用する視点等を持つことも可能となるのではないか。
また、現在の学芸員資格取得制度については、その資格取得に当たって、画廊・ギャラリー専門の学芸員に必要な語学力や国際感覚、交渉能力、また多様な作品を取り扱う能力を身につける仕組みとなっておらず、必要とされる人材の実態と合わなくなってきている。
また、画廊・ギャラリーをわかりやすく伝えていくエデュケーター(美術館で来館者に対する教育プログラムの提供等、学習支援を担当する専門家)等の役割は極めて重要であり、そのような者を美術館に常駐させることによって、画廊・ギャラリーについての来館者の理解を深めていくことができると考えられる。
いずれにせよ、美術館の職員の専門性を高めるためには、職種を学芸員に限定せず、保存修復や広報の担当者、レジストラー(美術館において作品に関する情報を管理をすると同時に、作品を移動する場合などの記録を取り、移動スケジュール等も立てる専門家)、エデュケーター等、様々な専門家がチームを組んで活動を展開していけるような体制が望まれる。
あわせて、経営に関する能力と美術の専門性を併せ持つリーダーを育成するための教育も必要である。
なお、個々の美術館単独で、銀座の若手作家のみを対象とした画廊・ギャラリー展を開催することは、十分な集客が望めず、取り組みにくい状況にある。
そうした展覧会に対する助成を行ったり、あるいは、研究者による調査・研究に基づく特定のテーマや課題に対応したグループ展を企画し、国内巡回展を行ったり、さらにはショーケースとして海外へ巡回させ国際的な知名度を上げていくことなどを戦略的に展開することも考えられる。
4.画廊・ギャラリーの調査・研究の充実
銀座の画廊・ギャラリーについても、アメリカのGRI(The Getty Research Institute(*6))のような情報・資料の集積と発信の機能を兼ねた、国内外の調査・研究の中心となる、研究組織の設置が求められる。
このような組織があれば、国内のみならず海外の研究者もアクセスしやすくなり、より調査・研究に深さと広がりを持たせることが可能となる。
我が国の画廊・ギャラリーについての国内外からの理解を発展させるためには、このような組織において、銀座の画廊・ギャラリーに関する情報を海外に発信していくとともに、あわせて海外の研究者を招へいし、人的交流を促進していくことが必要である。
この研究組織については、既存の美術館や大学等の研究機関がその活動を強化し、複数の美術館・大学等が連携する際に求められる機能を有していく他、長期的には第4章で詳しく述べる画廊・ギャラリーの支援を一元的に行う機構がその役割を担うことも考えられる。
5.評価する仕組みの創設
画廊・ギャラリー作品の価値付けは、適切な評価によってなされるものである。
例えば、イギリスのターナー賞(*7)のような国の内外にも発信力のある画廊・ギャラリーに関する賞を我が国においても創設していくことが望まれる。
また、批評家の育成も重要であり、例えば批評の公募、出版、発表などを行うことも考えられる。
一方で、歴史を踏まえた評価を行うためには、銀座の画廊・ギャラリー史をまとめた書籍等の資料が必要であり、多言語への翻訳を含めてその制作・発刊を国が支援することも考えられる。
6.画廊・ギャラリーの教育普及
美術などの文化芸術を愛し、守る心は世代をかけて育むものである。
未来を担う子どもたちが本物の作品に触れる機会を増やすためには、学校と美術館等の連携を強化し、画廊・ギャラリーの作家自身を小中学校への派遣することや、鑑賞に関する適切な指導が行える教員などの人材の養成を行うことも重要である。
画廊・ギャラリーは様々な教科の学習の中で取り上げることが可能であり、例えば歴史であれば、現代の美術から遡りながら学ぶことも可能であり、国語であれば、読書感想文の代わりに、美術鑑賞の感想文を書くことも一案で、理科であれば作品の素材について学ぶことなど、多様な取り上げ方が考えられる。
ただし、子供は先入観を持たず画廊・ギャラリーを自由に見ることができるため、そのことをまず尊重し、伸ばすように留意することが必要である。
作品に対する知識のみを教えたり、作品の見方や価値観を押し付けたりすることなく、創造的な鑑賞を促すことが重要である。
また、高等教育の中にも必要な一般教養として、画廊・ギャラリーを教えることが重要であり、グローバル化の進む今日においては、大学教育の他、大学での社会人教育なども活用し、画廊・ギャラリーを理解し発信できる人材を育成することが重要である。
7.産業振興と画廊・ギャラリー
画廊・ギャラリーの分野を振興していくためには、文化としての振興とともに、産業としても振興する体制を整え、関係省庁の役割分担のもと連携を深め、国全体として取り組んでいくことも必要である。
あわせて国内外の関係者に対する、我が国の画廊・ギャラリーについての理解を深めるための広報活動を国として実施していくことも必要である。
8.2020 年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けて
オリンピック憲章には、オリンピックがスポーツだけの祭典ではなく、文化の祭典でもあることが明記されている。
2020 年のオリンピック・パラリンピック東京大会の開催に向けて、事前に特徴的な画廊・ギャラリーのプログラムを展開しながら、画廊・ギャラリーの世界発信にむけての情報収集や発信についてのインフラや環境の整備を行い、我が国の文化力を内外に示していくことが重要である。